群馬県桐生市の南東、国道50号から少し路地を入った所にその工房はあった。
何の変哲もない古いたたずまいの工場の中から、織機の音が鳴り響く。
その中に織機をのぞき込む一筋の鋭い視線があった。
決して妥協を許さないその目は、1本の糸へと降り注がれる。
「この帯は縦糸の貼りが命なんだよ」
均一で腰の強い上質な帯は磨き上げられた熟練の技から生まれる。「何十年やってもこれでいいなんて思ったことはないよ。」その視線は究極の技を磨き上げるために今日も前を向いていた。
以前は街中から織機の音が聞こえた。
こういった工場も織物の街、桐生では以前ならばどこにでもあった光景だ。
しかし、最近は伝統の技を引き継ぐ職人の数が減っていると岡部氏は嘆く。
どうにかして良いものを残したい。
黙々と糸を引く背中が私たちに語り掛けている。
シャキッとした締め味の帯をつくるには、織るときの縦糸の張り具合が命です。
幅の帯はいくらもありませんが、糸の一本一本精魂込めて織り挙げる必要があります。
均一な張りで織ることにより、糸密度の高い帯がコシが強く、丈夫で締めやすい帯になります。
良い帯を作るには長年の経験と勘が必要ですが、それだけではありません。
この帯を締めて喜んでくださる皆様のためにも、もっと良い帯を作りたいと思う気持ちが今の私を支えてくれています。